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走り続けるために、自分をどう整えるか

福田さん

どれだけ準備を重ねても、思いどおりにいかない日はあります。気持ちが乗らない日もあれば、十分に練習を積んで迎えたレースで、思わぬ体調不良に見舞われることもあります。
そんなとき、どこまで頑張り、どこで休むのか。
速く、強くなることを目指しながら、自分の状態にどう向き合い、どう整えていくのか。

エンジニアとして働きながら、マラソンランナーとして競技を続ける福田裕大さんは、決まった指導者がいない環境で、自ら練習計画を立て、自分なりの方法をつくり上げてきました。

前回のインタビューでは、仕事と競技を両立するためのスケジュール設計や習慣、福田さんが試行錯誤の末に生み出した独自の練習法、「ダイフクスペシャル」について伺いました。インタビュー第3弾では、直近のゴールドコーストマラソンでの経験を入り口に、福田さんなりの「自分との付き合い方」を伺いました。

福田裕大(石川県出身・29歳)

星稜高校時代に県総体で1500m・5000mの2冠を達成。その後一時競技を離れるが、金沢大学進学後に復帰し、陸上部で全日本インカレや全国駅伝に出場。卒業後は実業団に所属せず、エンジニアとして働きながら競技を続けるマラソンランナーとして活動。2025年の北海道マラソンでMGC出場権を獲得し、仕事と競技を両立する姿勢が注目されている。詳細はこちら https://yudaifukuda.com/profile

PART 1.

想定外だったゴールドコーストマラソン

ゴールドコーストを走る福田さん

ゴールドコーストを走る福田さん

お久しぶりです。東京や横浜はかなり暑い日が続いていますが、金沢はいかがですか。(取材日は7月31日)

今年は、7月に入るまでは例年より涼しかったです。普段なら30度を超えることもありますが、26、27度くらいで収まっていました。
ただ、自分は暑いのが苦手で、昔、脱水で倒れてしまったこともありました。少し暑くても「練習しなければ…」と思ってしまうのですが、無理をすると、その後何カ月も走れなくなるくらいダメージが残ることがあります。気をつけないといけないですね。

無理をせず、休むかどうかの判断も大事な季節ということですね。今回は、まさにそういったセルフマネジメントのお話がテーマで、レースを続ける中で、福田さんが体調や気持ちとどう付き合っているのかを中心にお伺いしたいと思っています。
まずは、直近のゴールドコーストマラソンについて聞かせてください。

レース直前までは、かなり調子が良かったです。ただ、現地に着いてから乾燥の影響もあって、喉に違和感が出ました。当日の夜中には「少しまずいかもしれない」と思って、濡れマスクをするなどして対応しました。スタートの頃にはある程度収まっていましたが、万全ではなかったですね。走る前に体調を崩したのは、ほとんど初めてだったと思います。

練習の調子が良かっただけに、走れば何とかなるかもしれないとも思いますよね。

そうですね。練習は本当にうまくいっていたので、レースになれば走れてしまうのではないかという気持ちもありましたが、実際には、ハーフを過ぎたあたりから状態が悪くなりました。30キロ付近では、一度立ち止まって、やめようかと考えるくらいでした。
他方で、「ここでやめたら、“やめ癖”がつくのではないか」という気持ちがありました。途中棄権をした経験はなかったので、最後まで走り切ろうと考えましたが、今振り返ると、本当に体調が悪いときには、やめる勇気も必要だったと学びました。

やめるかどうか難しい判断だった、ということでしょうか。

はい。今回は大きな影響が残らずに済みましたが、これから何十回とレースに出ていけば、また同じような状況になるかもしれません。そのときにどう判断するかは、考えておく必要があると思いました。

結果についてはどのように受け止めていますか。

ゴールドコーストマラソンとは相性が良く、3年連続で自己ベストを出していた大会でした。今回も記録を狙っていましたので、やはり悔しさはあります。一方で、体調を崩した状態でも2時間15分程度で走れました。2年前の自己ベストと同じくらいなので、長い目で見れば、ベースは上がっていると考えることもできます。
今回は練習内容というより、長時間の移動や現地の乾燥を含めた体調管理が課題でした。機内や就寝時の喉の保護を、次は改善したいと思っています。本当に重要なレースの直前ではなく、このタイミングで体調管理について学べたことは良かったと思っています。

PART 2.

メンタルは「増幅器」。“やる気”に左右され過ぎないために

取材中の福田さん

取材中の福田さん

重要な判断をするとき、大学・実業団などの選手であればコーチやチームのメンバーに相談するかと思います。福田さんの場合は、基本的にご自身で決めるのですか。

基本的には自分で決めます。もちろん、仲間に「こういうとき、どうしている?」と聞いたり、情報交換をしたりすることはありますが、これまで決まった指導者がいない環境で競技を続けてきたので、いろいろな人からアドバイスをもらいながらも、自分で試して決めてきました。

そう考えると、福田さんにとってセルフマネジメントは大きなテーマですね。いつも計画どおりトレーニングされて、習慣化している印象がありますが、「今日は練習したくない…」と思う日はありますか。

あります。特に暑い季節は苦手なので、冬場に比べると「今日はやりたくないな」と思うことはあります。

福田さんにもあるのですね! そういう日はどうされていますか。

朝起きてやる気がなくても、とりあえず公園や競技場へ行きます。
そこで10分、20分走ってみて、本当に駄目ならやめて帰ります。でも、大抵は場所を変えて走り始めると、やる気も出てきます。9割くらいはそれで解決しますね。

実際は、身体ではなく気持ちの問題だと。

モチベーションの波はありますが、メンタルを上げたいと思っても、それだけで上がるものではないと思っています。そんな時は、まず行動したり、場所を変えたりする方が大事ですね。仕事でも、単純作業をしなければならないのに気が乗らないときは、カフェへ行くことがあります。練習もそれと同じです。

自分の感覚では、メンタルは「増幅器」のようなものだと思っています。例えば、体調が良いと、気持ちも上がって、練習をやりすぎてしまうことがあります。逆に、少し調子が悪いと、それを気にし過ぎて、全く練習したくなくなることもあります。でも、実際に走ってみるとそれほど悪くなかった、ということもあります。

「増幅器」とは面白い表現ですね。良い方向にも、悪い方向にも大きく見せてしまうということでしょうか。

はい。だから、良いときほど慎重に、悪いときほど少し楽観的に考えるようにしています。できるだけ、メンタルに左右され過ぎないようにしています。

PART 3.

実戦を重ねながら、自分を鍛える。

川内優輝さんと福田さんのスナップ

川内優輝さんと福田さんのスナップ

先ほど「メンタルは増幅器」とおっしゃっていましたが、そもそもマラソンという競技自体、メンタルの影響は大きいのでしょうか。

大きいです。マラソンは、メンタルがかなりの割合を占める競技だと思います。42キロ走っていると、身体がよく動いて楽しい時間もあれば、苦しくて耐えなければならない時間もあります。ずっと同じ状態で走れるわけではないので、メンタルを鍛えることはとても大事です。

個人的には、いかにレースで経験を積むかが重要だと思います。練習でも鍛えられますが、場数を踏んでいく中で少しずつ鍛えられていく部分があるためです。前回お話しした「ダイフクスペシャル」も、きつい区間を走った後、完全に止まるのではなく、ある程度のペースを保ちながら回復していく練習です。「きつい中でも耐える」という意味では、メンタルのトレーニングにもなっていると思います。

福田さんの場合、練習と実戦の両方で鍛えてきたということですね。ほぼ毎月のようにレースに出ていますが、それもセルフマネジメントの一部になっているのでしょうか。

そうですね。自分の場合は、ほぼ毎月レースがあるので、それが一つのサイクルになっています。レースの1週間前くらいから調整を始めて、終わったら最低3日間は完全に休む。その後1週間くらいかけて徐々に戻して、またトレーニングを積んでいきます。

一つのレースでうまくいかなくても、次の機会があります。ゴールドコーストの後にもシドニーが控えていたので、一度休んで、次に向けて頑張ろうと切り替えることができました。
自分はレースが一番楽しいですし、経験を積むという意味でも、このサイクルが自分には合っているのだと思います。

とは言え、レース前はやはり緊張しますか。

毎回緊張します。42キロは長いので、何が起きるか分かりません。最近は調子が良いことも多いですが、その力を本当に発揮できるかという不安や緊張はあります。ただ、これまでは緊張したレースほど結果が出たことも多いので、緊張自体を悪いものとは考えていません。

レースを一つのサイクルにすること以外にも、モチベーションを動かすために意識していることはありますか。

活躍しているランナーの映像を見ることがあります。練習の過程から本番のレースに出るまでを追った映像を見ると、自分も走りたいという気持ちになります。

仕事でも、プロフェッショナルの仕事ぶりを扱った番組を見ると、自分も頑張ろうと思うことがあります。自分の中だけで何とかしようとするより、外から力を借りる方が自然に気持ちを動かせることがあります。

外からの力が刺激になるということですね。ちなみに、福田さんが特に影響を受けたランナーの方はいらっしゃいますか。

川内優輝さんです。初めて知ったのは、中学生の頃に見たテレビ番組でした。
当時、川内さんは公務員として働きながら多くのレースに出場されていて、「こういう形で競技を続けることもできるのか」と、とても大きなインパクトを受けました。また、高校生の頃に川内さんとお話しする機会があり、「いつかレースで競り合えたらいいですね」と声をかけていただきました。その言葉にとても勇気をもらいました。
川内さんのやり方をそのまま真似ているわけではありませんが、レースに数多く出ながら、実戦の中で鍛えていくスタイルや、仕事と両立しながら規律を持って練習を続ける姿勢にも、かなり影響を受けていると思います。

MGCへの出場が決まり、周囲からの注目や期待を重く感じることはありますか。

MGCへの出場が決まってからは、プロの選手を含め、さまざまな人から声をかけられる機会も増えました。期待を重く受け止めるというより、純粋に楽しめています。

最初に一気に注目されたというより、時間が経ってからも「市民ランナーとしてMGC出場を獲得した人ですよね」と声をかけていただくことがあります。交流が増えたことで、競技の楽しさも以前より増しているかもしれません。つながりは本当に財産だと思います。

PART 4.

長期的な目線で試行錯誤

MUSVIの横浜オフィス近くにて

MUSVIの横浜オフィス近くにて

今回のお話を通じて、福田さんは周囲から影響を受けながらも、自分の軸で試し、選び直していると感じました。ご自身では、自分をどのようなタイプだと思いますか。

仕事でも競技でも、「これをやってみたい」「あれも試してみたい」という気持ちが強いです。
練習メニューでも、いろいろな情報を取り入れて試していますし、アプリを作るときにも、プロトタイプをたくさん作ります。そういう意味では、いろいろな分野での「クリエイタータイプ」なのかもしれません。

新しいものが好き、ということでしょうか。

それもあると思います。ただ、新しいものなら何でもいいというわけではなく、自分が納得できることが大事です。
トレーニングについても、一般的な練習方法にそのまま乗るのではなく、自分に合うものが見つかるまで試行錯誤したい。試行錯誤そのものが、一番楽しい部分でもあります。

そのような考えに至ったきっかけが何かあったのでしょうか。

大学3、4年生の頃は、限界まで追い込めば強くなれると考えていました。焦りもありましたし、練習で追い込んだ人が勝つという感覚が強かったです。短期的には、ある程度うまくいくこともありました。ただ、長い目で見ると、どうしても頭打ちになりました。
そこで、箱根駅伝に出た同期など、いろいろな人に練習について相談しました。すると、強い人たちが、想像していたほど無理に自分を追い込んでいないことに気づきました。もちろん練習はしていますが、もっと長期的に考えている。最初は「それでいいのか?」と意外に感じました。
しかし、自分も12カ月くらいの長い単位で計画を考えて試したところ、うまくいきました。それ以来、短期的に追い込むだけでなく、長期的に成長できるかを考えるようになりました。

「ダイフクスペシャル」も、試行錯誤の過程から生まれたのですね。仕事とも共通していますか。

そうですね。一般的なテンプレートどおりの練習だけでは、今の形にはたどり着いていなかったと思います。自分が納得できるものを見つけるまで、競技も仕事も根気よく試行錯誤しています。
MUSVIでは、お客様の利用状況を可視化するログ分析の開発に関わっていますが、新しい仕組みをつくるときには、複数の方法があり、それぞれを調べ、相談しながら、自分たちに合う形を決めていく。その過程も楽しいです。仕事でも、チームで相談することを通じて、自分にはなかった考え方を知ることができます。

次のレースは、シドニーマラソンです。課題が残ったゴールドコーストの後だけに、気合も入りますか。

リベンジという気持ちはあります。今回は体調管理にしっかり注意しながら、これまで積み上げてきたものを出せるように頑張りたいと思います。

シドニーのお話も楽しみにしています。ありがとうございました。

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