INTERVIEW
01「働くこと」のあいだで
福田裕大さんインタビュー #01
“仕事の場”という、もう一つのグランド
福田さん MUSVI横浜オフィスにて
福田さんは、現在、「窓」のソフトウェアを支えるエンジニアとして開発に携わりながら、マラソンランナーとして国内外のレースに出場しています。「二足の草鞋」を履く生活を送る中、2025年の北海道マラソンで3位となり、MGCの出場権を獲得しました。取材依頼が急激に増えたそうですが、MUSVI社内の打ち合わせやチャットではいつも通り。その姿は「アスリート」や「エンジニア」という言葉で簡単に括ることとは少し違っていて、“最強エンジニアランナー”として気負わずユニークな挑戦を続けている福田さんを、MUSVIなりの形でぜひ応援したいと考えました。
今回のインタビューはその第一弾。記録やレース結果の分析は専門のメディアにお任せし、「走ること」と「働くこと」のあいだで福田さんが何を感じ、どういうスタンスでマラソンに向き合い、働いているのかを、“仕事の場”というもう一つのグランドからお伝えできたらと思います。
福田さん(左)とCTOの見山さん(右)
星稜高校時代に県総体で1500m・5000mの2冠を達成。その後一時競技を離れるが、金沢大学進学後に復帰し、陸上部で北日本インカレや全国駅伝に出場。卒業後は実業団に所属せず、エンジニアとして働きながら競技を続けるマラソンランナーとして活動。2025年の北海道マラソンでMGC出場権を獲得し、仕事と競技を両立する姿勢が注目されている。詳細はこちら https://yudaifukuda.com/profile
出会いのきっかけは
経歴書に書いたマラソンの記録
実物を見る機会がほとんどありませんでしたが、間近で見ると「こんなに大きいのか」と驚きました。自分の身長よりも大きいプロダクトに、自分が関わっているという感覚は新鮮でした。これまでハードウェアに関わることがあまりなかったですし、ソフトウェアだと完成したら一区切りという認識になりがちです。でも、ハードウェアは、そこからが本番というか、実際に触れられる形で存在し、動く姿を自分の目で確かめられるのはとても嬉しいです。
MUSVIメンバーと横浜オフィスにて
仕事はいつも 3月末が一番忙しくて、4月に少し時間ができたタイミングがあり、SNSやネット上でいくつかのプロジェクトの案件を見ていました。その中で、「クラウド側から入りつつ、ハードに徐々に関われる」という点に惹かれ、これまでの経験を活かしつつ新しい挑戦ができそうだと思い、応募しました。
CTOの見山さんが「ぜひお話を聞きたい!」と言っていた記憶があります。
あえてそうしました。そうすることで、本当に関わりたい人たちと関われるんじゃないかなと思っていたので、本当にその通りになってよかったです。
よくある面接という感じではなく、エンジニア同士の技術の話が中心でした。これまでに作ってきたアプリや今後のプランを話したら、すぐに技術的な深い話題になっていきました。「ここのロジックはどうなっているんですか?」など、具体的な質問をいただいたのも嬉しかったです。あんなに楽しい面接はなかったです。
はい、自分のやりたいことと一致していましたし、「来てもらえますか」と言われたとき、即答でした。実際に働き始めてからも違和感はなかったです。自分のペースで仕事できる環境があるので、生活のリズムと仕事のリズムを合わせやすいと感じています。また、「窓」を通じて仕事と競技を両立させ、ライフワークバランスを保てるのではないかと感じました。
我々にとっても改めて考える機会を与えていただいたと感じています。
地方発「市民ランナー」としての活動
一般的には「プロではない側のランナー」という区切りで使われますよね。でも、今は、発信の仕方とか、働きながら走る人の在り方もいろいろあるので、「自分のやり方で続けている人」という意味で捉えています。僕にとっては、好きなペースで走りながら活動を続けられる立ち位置、という感じです。
そうですね。noteでは、練習メニューの内容だけではなくて、その裏側やランニング哲学も一緒に書いています。指導者にアドバイスを求める時などメニューを出してもらったりするのですが、実際にそれが実践できるかどうかはまた別で、やはり考え方が大事だと思います。人によって、練習できる状況やこれまでどう伸びてきたのかは違います。昔から指導者のいない環境でやってきて、自分でトレーニングを考えたり試したりするのが好きなせいか、メニュー以外の重要な要素もたくさんあると感じています。
プロになるということは、充実した練習環境など待遇がよくなる反面、結果を出し続けるプレッシャーや集団に属することによるスケジュールの制約があります。逃げ道はないし、自分のペースで走ることが難しくなる可能性はあります。結果や記録がついてくるかもしれませんが、それはもう神のみぞを知る、みたいなお話です。
ただ、どちらが自分に合っているかと問われれば、完全に市民ランナーです。自分で決める部分や自己管理の部分が多いだけで、やっていること自体はプロと近いのではないでしょうか。そういう意味では、今の時代、プロと市民ランナーの境界は曖昧になってきている気がしますし、“市民ランナー”の定義をちょっと変えていけたらなと思っています。
北海道マラソンについては、当日スタートラインに立った時はあんなに走れると思っていなかったです。途中で「今日は調子がいいぞ」みたいな感じでした。去年の冬ぐらいからやっと自分のやり方が見つかり、これまでやってきた練習が結果につながっていると思います。
すごく良いです。河川敷がありますし、競技場自体も広いです。周囲が芝生に囲まれており、空いていて、いつものびのび練習できています。東京だと、河川敷や公園、競技場まで電車で移動して、準備して……と、走り始めるまでに時間がかかりますが、金沢だと家を出てすぐに練習が始められます。
一日ずっと仕事していても夕方の16時か17時くらいに一度外に出て、走ってリセットする時間を作っています。そして、戻ってきて、晩ご飯を食べてからまた仕事に集中する、といったスケジュールが個人的に一番合っています。
そうですね。最初は仕事と走ることを両立できない時期がありました。本当に忙しい時期は4ヶ月近くほぼ走れない時期があって、「いかに時間を削るか」という発想になりました。でも、リモートワークが浸透したことで通勤時間がなくなり、その時間を練習に回せるようになったので、今はリモートが必須だと考えています。
世界七大マラソン、MGCに向けて
取材依頼がかなり増え、メディアや企業、母校の大学から連絡がありました。また、この間は、ベルリンマラソンが終わって帰国する時にヘルシンキで乗り換えたのですが、空港で日本人の方に「MGC (の出場権を)取った方ですよね」と声をかけられ、驚きました。競技場で有名な選手の方に声をかけていただくこともあり、MGCまでに何が起きるのか、ちょっと想像がつかないです。でも、生活のリズム自体はあまり変えていません。仕事をして、夕方に走って、戻ってきてまた作業する、という流れはいつも通りです。
MGCは、オリンピック日本代表選考という大きな舞台です。出られること自体が目標になる選手も多いです。僕も「まさか自分が」と思いました。せっかく出場するなら、ただ出場するだけではなく、最大限活かしたいというか、「実業団に所属しなくてもこういうところまで行けるんだ」というのをちゃんとお見せしたいなと思っています。
はい。楽しみにしているのが世界七大マラソン※の制覇です。これまでの間に、東京、ロンドン、ボストン、ベルリンときて、来月はニューヨーク。来年はシカゴとシドニーに出場したいと考えています。全部のレースを完走すると、「Seven Star Finisher」という称号があり、メダルをいただけるのですが、応募する段階でもタイム制限や抽選などもあるため、そもそも海外レースにこれだけ出られることはなかなかない経験なのですごくありがたいですね。
※世界主要マラソンとして知られる6大会(東京、ロンドン、ベルリン、ボストン、シカゴ、ニューヨーク)に、シドニーを加えたもの。
本業はエンジニアですし、レースがある時でも朝ごはんを食べながらちょっとパソコンを開いて急な不具合に対応することもあったり、そういうことが日常になっています。MGC に向けて調整とかしても多分うまくいかないと思っていて、今と変わらず自分のペースを作って臨みます。


インタビューも今回限りではなく、主に「働くこと」の視点から福田さんの活動に伴走し、MUSVIとして応援させていただきたいと思っています。
ありがとうございます。これまで感覚的に取り組んできたことを、こうしてインタビューを通じて言葉にできるのは本当にありがたいです。言語化することで学びを深めるきっかけにもなるので、そうした面から応援していただけるのはとてもありがたいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
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